店内に客はなし、朝日まぶしくあくびを噛み殺しながら、来客告げる電子音にふりむいた。
いらっしゃいま、止まる。口元が引きつった。自動ドア開けて入ってきた、見慣れた奇天烈頭はにこにこと手を振って、こっちを見ていた。すかさずとなりのレジにいた店長をふりむく。

「店長俺、奥でドリンクやってき『すみませーん! ジャンプどこですー?』」

かき消すでかい声、店長はあごをしゃくり、対応しろと無言で命令した。ああコンビニ店員のはかなき。(ジャンプはおまえの首を捻って一メートル先だっつーの!)

渋々、レジを出て店の入り口、突っ立っている新妻くんを連れて窓際の雑誌コーナーに連れて行く。ジャンプを指で差しながら、小声で聞いた。

「新妻くんなにしてんだ、学校はどーした学校は」
「通学途中です。今日変な時間に起きちゃったから来ちゃったです」
「(来ちゃったじゃねーよ・・・)とにかくほらジャンプここだから、じゃあな」
「あっ! ちょっと待ってください!」

がし、すばやく制服の袖をつかまれて止められる。(おい人の店で大声を出すな!)うんざりと見下ろせば、あいかわらず機嫌よさそうに新妻くんはにこにこしている。

「福田さんジャンプ買ってくださいよ」
「はァ? おまえ編集部からもらえるだろうが」
「僕は福田さんが買ってくれたジャンプが欲しいんですー」
「貧乏フリーターにたかってんじゃねえ!」
「こら福田、お客様に向かって!」

人のいないのをいいことに、直接怒号が飛んでくる。スミマセンオキャクサマ、仏頂面であやまると新妻くんはくくと笑った。(くそ、コンビニ店員は辛いぜ・・)今度は声を潜めて文句を言う。

「おい、おまえのせいで怒られちまったじゃねえかいいかげん離せ、」
「ププ、福田さんしょんぼりでしたね」
「おまえのせいだおまえの!」
「福田!」
「・・・おまえさまのせいでやがりますお客様」

新妻くんは今度こそ大声上げて笑った。(・・・・今日のアシ、ボイコットするぞてめえ)腹抱えて笑っているから苛々して、足早にレジにもどる。
新妻くんはそれからしばらく雑誌のコーナーでぺらぺらとめくっていたが、そのあとサイダーを一本持ってきてレジに置いた。リュックの中からごそごそと財布を探っているうちにピッとスキャンして百四十七円です、事務的に告げる。ぴったり、新妻くんは払った。さあとっとと帰ってくれと思ったとき、ふっと見上げて新妻くんが言う。

「ほんとは働いてる福田さん見たくてちょっと早起きしたです。嘘ついてごめんなさい」

それあげます、そう言って新妻くんはさっさと去って行った。残ったのはしゅわしゅわいうサイダー一本と無関心な店長と呆然とした俺。言い逃げとは卑怯な、俺にいったいどうしろと。せめてアシスタントに急いでかけつけるくらいしかできやしないだろうがああもう、困った先生だ。

(つうか新妻くん持ってくるとき盛大に振ってたよな? 振ってたよな? なんつう天然の嫌がらせ!)


(2009.0614)