(かたい、)

背中、いつものベッドじゃない、軋む骨にそう感じた。目を覚ませばやはり、アシスタント用の布団に横になっている。まず意識の行ったのは匂いだった、汗と生臭さの混じった独特の。よく知ったそれにああまただと気づく。そのあと疲れた神経が伝えるのは腰の痛みと下半身の違和感、そうして身体中の関節の悲鳴だった。

特に嫌悪とかそういう感情が浮かぶことはない。ただ昨夜は少々乱暴にされたから後処理が面倒だと思うだけ。そして乱暴をはたらいた平丸先生はもう横にはいなかった。吉田さんの足音でも聞こえてすたこらと逃げたのだろう。べつにどうでもよかった。

まだすこし眠くて、三年は学校もなくて、もう一度寝なおそうかと、毛布をかぶっておぼろげに考えていたちょうど、そのときだった。

ガチャリ、遠くでドアの開く、音の聞こえて心臓がどくりと大げさに、期待に喚いた。かぶったばかりの毛布をてきとうに剥ぐ。ひやりと隙間風が肌を刺したけれどそんなことは気にならなかった。ひたひたと足音、歩くたびの衣擦れは床を伝ってこの部屋に近づき、そうしてゆっくりと、襖を開けた。差しこむ眩しさに細めながら、光に目をやる。銀糸が揺れた。

「あ、こっちか」
「・・・福田、さん」
「いつまで寝てないで、さっさと起きて原稿やってくださいよ新妻センセー」

剥きだしの脚、ぐしゃぐしゃのシーツを見ても福田さんは顔色ひとつ、変えてくれない。むっとして、頭から毛布をかぶり直した。無言の抵抗に気づいた福田さんはわざとらしくため息をついて、のそのそと歩み寄ってきた。そうして大きな手のひらがわしわしと、僕の寝癖をかき混ぜる。ほらはやく、頭の上から降ってくる声、なんの変哲もない。つまらない。ますますぎゅうと、毛布にしがみついた。お尻は寒いけれどせめてもの意地で、隠すことはしなかった。呆れた声が僕の頭をたたく。

「誰と寝ようとかまわねえけど、ペン入れはとっととやってくれよ、俺だって暇じゃねえんだから」
「・・・・嫌です、起きません」
「わがまま言うなって、つうか、腹、ちゃんときれいにしねえと壊すぞ」
「ほっといてくださいよ、福田さんには関係ないです」
「ったくしょうがねえなあ、」

立ち上がったから、作業部屋にもどるのかと思った。すると突然、持ち上げられた腰におどろく。わあ、とかぎゃあ、とか、言っているうちに毛布を落としてしまった。一瞬で横抱きにかかえられている。肩を背を尻を脚を、二月末の冷気が撫ぜてぶるりと震える。

「ふく、だ、さ・・っ・・・下ろして、ください、よ・・!」
「嫌デス、離シマセン」

片言、僕の言ったようにわざと、福田さんはいう。じたばたともがいたのに細い、けれど筋肉のしなやかについた腕はびくともしない。腰の痛みが増して、廊下に汚い性欲の残滓を溢しただけ、最悪だ。フローリングに落ちた白濁に福田さんが眉をしかめるのがわかった。

「もーまじ割りに合わねえ、アシスタントのギャラ上げるように雄二郎に言ってくださいよ先生」
「じゃあ福田さん僕と寝てくれたら考えます」
「けっこうです」

身体くらい自分で洗え、そう言ってお風呂に放り込まれる。ゆっくりとタイルに下ろす動作はひどくやさしくて、泣きたくなった。


ああもうほんと、最悪だ。
僕が彼に嫉妬してもらいたくてこんなことを繰り返していることに、彼はちっとも気づいてくれない。僕を天然だとか言うくせに、だれより鈍い人なのだ。


(僕はいつだってまっすぐに澱んだ愛を送っているのに)



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いやらしえいじ
とだけメモ帳に残っていたので書いてみた
私のサイトはそろそろR指定を設けた方がいいのかしら


(2009.0804)