(たとえ、切手がなくても)


連載会議の結果にしょんぼり、落ち込んで、しばらくカップ麺の量の増えた福田さん、前のように一日一度は野菜をとるようになったのは週明けて月曜日、十八日のことだった。

雄二郎さんが編集部から持ってきた大きなダンボール一箱、詰まっていた手紙のほとんどは僕宛てだったけれどその内のいくつか、福田さんと中井さん宛てのものとに分けられていた。

なんだよ、ヤローばっかじゃねえかと福田さんはぼやいていたが、顔は我慢できないらしく、ほとんど、笑っていた。

僕はファンの手紙に目を通したことはあんまりなかったけど、そうかそんなに嬉しいのかと、思って鉛筆手に取った。(福田さんに僕も、手紙書くです!)便箋は家にないから、てきとうなネームの裏。福田さんを背に机に向かってうんうん、国語力を捻りだす。(手紙は苦手です…)たぶん日頃のカンシャとかそういうものを書けばいいのだろうけどちょうどいい文章はなかなか出てこない。(そうだこういうときはキャラのセリフから、ハ! ちがうですマンガじゃないです! …あぶないあぶない、)

無意識にコマを割ろうとした右手をなんとかとどめて、ううーん、出だし、そうだと参考に、自分宛のファンレターをダンボールからひょいと取って読んでいくつか読んでみる。いつも楽しみにしています、がんばってください、おもしろいです。だいたいはそんなかんじのことが書かれていた。

″福田さんいつもありがとです″

たぶん、一文目はこれでいい。字は下手だけどとりあえず書く。ひとつ書いたらそのあとも大丈夫に思えてきて、僕は一度、気分転換にマンガを描くことにした。(手紙でたたかうマンガとかおもしろいです。主人公の武器はこんなのが…)


「ふがっ!?」

思わず目を見開いた。窓の外を流れる、市の流すおかえりチャイムに夕方五時を知る。お昼ご飯を食べて手紙という名のマンガを描きつづけ、気がつけばもう五時間も経っていた! おそらくまじめに手紙を書こうとしていたのは最初の十分くらいだったにちがいない、だって床に散ったネームの裏はもう結構な量になって福田さんに読みきりの予定でもあったっけと聞かれるほどだ。ああ、とペンを放り出した。

(ぐあー、失敗したです…! でも諦めないですいつか僕も福田さんにファンレター出します!…今日は、ひとまずマンガを描きますケド)

走り書き数十枚のネームの裏、その一枚に福田さんがよれよれの字、ひとこと見つけて笑っていたのを、僕はしらない。

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久々、リハビリ程度に短文


(2009.1021)