※平蒼前提の福田+蒼樹嬢です



俺と平丸さんの趣味は合わない。たとえば十人が俺たち二人を見たって全員おそらく同じことを思うだろう。外見だけとったってヤンキーファッションばかりの俺とシャツにスラックスくらいしか見たことない平丸さん、好みが似通っていると思うならそいつは相当の近視くらいだろう。

もしかしてこいつは目がわるかったのだろうか。(そういえば原稿を読むときは眼鏡をかけていたのを何度か見たことがあるな)まじまじと見下ろしていると視線に気づいた蒼樹嬢が毅然とにらみかえしてくる。なんですか福田さん、失礼ですよほらさっさと選んでくださいと高慢ちきに言うこの女こそ、平丸さん宛のプレゼント選びに付き合えと朝イチ電話で呼び出した張本人である。なんで俺の休みを知っているんだと聞けば担当伝いに見事にリーク、雄二郎後日シメると心に誓いながらけたたましい呼び声に誘われるままバイク飛ばして駅前のショッピングモール。知り合った頃はもうすこし喋り声も態度も小さかったように思うがもしかして(こんなこと俺だって言いたかないが、)ひょっとすると俺の影響かもしれないのでおそろしい。

ぶるりと震えていると手にしたタイピンを棚にもどした蒼樹嬢はくるりと俺を振り向き好き勝手に言った。

「ネクタイにはいつも違う種類のつけているので、他のものにしましょう」

数分前あれはどうかしらといって男物のスーツ屋に飛び込んだこの女の背中を俺はきっと忘れない。


蒼樹嬢の買い物は長い。(いや、蒼樹嬢の、というより女子っていうやつがたぶんみんなそうなんだろう。俺はこいつの買い物くらいしか付き合ったことがないから比べようがない。)

そして今日に限らず、俺を買い物に呼び出すことが多かった。いわく、荷物持ちにちょうどいいのだそうだ。平丸さんと付き合い出したんだからそっちを頼れと言ったのに、平丸さんにそんなことさせられませんキリリと返ってきたのでこいつは俺を都合のいい従者かなんかと勘違いしていると思う。(しかしそこまで堂々と言い切られるのはまあきらいではない)

まあ暇なのもたしかなので俺もホイホイ付き合うことが多かったが、今回ほど品定めの難航したのは初めてだった。人へのプレゼントだとしても悩みすぎだろうもう健康的な朝の集合時間からいったい何時間経ったと思っているのか。しかし真剣な蒼樹嬢はいまだ空腹ひとつ訴えず立ち並ぶ店をきょろきょろと眺めている。

すれちがう男の視線からさりげなくその小さな身体を守りながら、縦に長いモールの中央、円形にくりぬかれた広場で足を止めた。青空の下、平日は人気も少なくまったりとした軽食のワゴンがいくつも並んでいる。いい加減なんか食うぞと首根っこを声でつかむと蒼樹嬢はようやく立ち止まり、ちらりとジャンクフードの看板を見回してむむむとうなった。最近妙に、(誰の影響かなんて考えたくもないけれど)焼きそばやたこ焼きといった食事に興味を示しだした蒼樹嬢にとっては広場は戦場らしかった。(すずめの涙くらいしか胃に入らないんだからまあ、悩むのも仕方ないかもしれないが)最初は青海苔あんな、嫌がってたのにな。

片端から食べる俺の横でけっきょくお好み焼きと別腹だというジェラートをちまちま食べた蒼樹嬢は満腹に息を吐いて広場のベンチを立ち上がると、俺を見てはっとした顔で言った。

「ひ、平丸さんには、言わないでくださいね…」
「? なにがだよ」
「…お好み焼き、好きなこと…」

こまった。めずらしく俺の前でそんな風に照れられたんじゃとても言えなくなってしまった。口の横にソースついてるぞ、なんて。

(言ってひっぱたかれるのがいいのか、それとも言わずにひっぱたかれるのがいいのか…やれやれ)


まったく口ってやつは災いの元だな、右頬を押さえながら午後の第二ラウンドに付き合ってあるく。駅前に新しく出来た、若向きの一番大きなショッピングモールだったが道のりもあと数軒で終わりを告げようとしている。蒼樹嬢はいくつか食い入るようにじっと見たりもしたがどうもこれという決め手はみつからなかったようだった。ショーウィンドウに手をつきながら、気のせいかいつもよりももっと小さく感じる背中に声をかける。

「あー、のさ、ほら、あれだ、買うもんが決まんねえならいっそ手作りにすれば? 女なんだし、甘いもんとかさ、いいんじゃねーの?」

俺はなにを言ってるんだ、提案しながら自分で自分につっこんでしまう。天地がひっくり返ったってこんなキャラじゃねえ。なんで出来たてカップルのプレゼントの心配までしているんだ俺ってやつは。蒼樹嬢の背中はうごかない。ああやっぱ今のナシ、ナシナシナシ、言い直そうとして止まった。

蒼樹嬢がふりむいたのだ、これ以上ないようなパアアと明るい笑顔なんかつけて。いいですね、そうしましょう、それがいいわ、ルンルンルン、今にも鼻歌うたいだしそうな勢いで蒼樹嬢は元来た道をもどり始める。オイ待てよオイ、行き先決まってんのか、追いかけながら聞けばにこにことモールのメインのひとつ、大型のスーパーの名前が挙げられる。足取りは本当にヒールかと思うほどぴょんぴょんと軽い。(ああ、これは、もしかしなくても)もしかして俺も作るの手伝うのか、とは、怖くて、きけない。恐怖に震える唇を噛み締め、軽いヒールがあやうくレンガ道に引っかかって転ばないよう急いで後を駆けた。

え、なにいってるんですか? あたりまえですよー、きょとんとしたジャイアニズムがかえってくるなんて、最初からわかりきっていた。




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やだ平福蒼ちょう楽しかった大好き!
友人的な福蒼大好き蒼樹嬢かわいいひょおおおおおう!もっともーっと書きたい!!!

(2011.0330)