「うわ、」

鼻、まっか。ドラッグストアを出るなりぽつりともらせば雄二郎はカシミヤに唇までうずめてずびと鼻をすすった。

「だから中で待ってればいいって言ったのに、」
「な、なんか、恥ずかしいじゃないか・・・男連れで」

ためらいがちな視線は時おり、俺が手に下げた黒いビニル袋をかすめている。持ってくれんのと聞けば丸い目をあからさまにびくつかせた。(この人たまに可愛いとこ、あんだよな)

ほら行くぞ、冷えた指先をつかんで歩き出した。
雄二郎はなにか言いかけたが、冬の深夜の漆黒に呑み込んだようだった。住宅地に向かう通り、人影はなく、車道挟んで向かいの歩道にはきっと俺たちの手など見えない。昼間はちょっとケツに触っただけでぎゃあぎゃあ怒るくせに、人目がないと自分から握り返してくる手は萌えた。

黒い夜、突き刺す寒さに凍えないようにしっかりと、俺たちは握りしめていた。


雄二郎のマンションに着き、寝室に直行、ジャンパーを乱雑に脱いで放って、ベッドサイドに置いたビニル袋をのぞきこみ思い出す。

「あ、」
「ん?」
「なんか、ポイントが貯まったとかで、アフロネコのホッカイロケースもらった」
「僕いらないからね」
「喜んでもいいっすよちっと早いけどクリスマスプレゼント」
「ねえ僕の言ったこと聞いてた?」
「もこもこしてかわいんすよ」
「・・・・あ、ほんとだ」

手渡した茶色い毛糸のネコをすこしうれしそうに撫でる、雄二郎をベッドに座り手招きした。ちらり、上目に見た雄二郎は先に風呂にと言ったが俺が目で許さなかった。わざとらしくため息をついて袋の中にネコをもどすと、座る俺の脚のあいだにおずおずと、ひざから。ゆっくりとした動作にじれて、腰を抱き寄せる。バランスを崩した雄二郎はわあと色気ない声を上げ俺の胸に飛び込んだ。

かっちりとしたコートのボタンが片手にはすこしもどかしい。雄二郎はそわそわと、背中に手を回すかどうか、手を悩ませていた。慣れないようすに小さく笑いながら、ゴム出しておいて、要求する俺はたぶん、すこしひどい男なのだろう、雄二郎は目に見えておろおろしていた。

しかしいつまでそうしているのにも居たたまれなくなったのか、上半身だけ振り返り、黒いビニル袋。ネコをいつくしむその細い、子どもっぽく短い指はさっきは純粋なかわいさみたいなものがあったのに、紫色の毒々しい箱を恐る恐る持った今はなんだか、とても淫猥に見えた。

白とのコントラストにすら、うっすらと興奮する。あけて、シャツのボタンを外しながら言えば雄二郎は大げさに肩をおどろかせ、情けない顔で俺を見た。

「ま、まだ、いいじゃないか」
「雄二郎さんが開けるとこ、見たいんすよ」
「・・・そうゆうの、変態って言うんだぞ」
「へーさすが雄二郎さん難しい言葉知ってますね」

にらまれた。どこか力ないその視線に笑う。手を止めて、腰を撫で無言でにやにや待っていると、あきらめた雄二郎はのろのろとパッケージを開けた。男のくせに恥ずかしくて指が滑り、シーツにいくつかぶちまけてしまう俺の恋人は、やはり可愛い男なんだと思う。


使い終えべたりとしたそれをティッシュに包んで捨てた。

雄二郎は肩で息をしながら、情欲の色残した目でぼんやりと俺を見上げる。浮かんだ涙をそっと、やさしすぎるほど繊細にぬぐって俺は、言うのだ。

「次は、店ん中で待ってろよ」
「え? や、やだって言ったじゃないか、」
「ダメ、俺がヤなんだよ、待ってるあいだにお前が冷えんの」
「! ・・・う、わ、わかっ、た・・?」
「・・・・どっちだっつの」

シーツに顔うずめ、雄二郎はすこし、困ったように、しかしうれしそうに、笑っていた。



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じょうずにかけたおともだちには、すてきなプレゼント!(笑)


(2009.0825)