ふくらはぎに纏わりついてくる重さ、足蹴にするとぐぎゅ、潰れた音がするが気にしない晴れやかな日曜の午後。陽光はひどく穏やかに照らし、下の住人の育てる金木犀は二階までやんわりと香る。

夏終わりひと休みの吐息のように吹く風が軽い羽毛布団を揺らしていた。よく干したそれを、日の翳る前に両手で抱え、部屋の中、ばさりと放るとうぐ、驚きの呻き。どうやら床に寝そべっていたのを下敷きにしたらしい。溜息。旦那を邪魔よとはねのけ掃除機かける熟年主婦の気持ちがよくわかる今日このごろ。

布団からはみ出た足は気にせず持ち上げようとすると、不意に、布団越し、ぐいとつかまれた。とうとつすぎて踏ん張ろうとしてもかなわずそのまま、ふわりあたたかい羽毛にダイブ。飛び込んだ先には平丸くんの堅い身体があり、スプリングの軋むごとくぐうと呻いて、それから反撃といわんばかり、ぎゅうと布団ごと抱きかかえられた。完璧に肘をとられ身動きできない。

「ちょ、ちょっと平丸くん、干したばかりだぞ、しわ、がっ、」
「抱き枕はしゃべりませんよ吉田氏」
「っ! 勝手に抱き枕にしてるんじゃない!」 「いいじゃないですか今週はもう原稿も終わったし、昼寝くらい」 「よ、く、な、い! 俺は飯をつくったら帰る約束だろ…!」

じたばたもぞもぞ、動けどもただ真綿をつかむばかり、たまに平丸くんをつかんだと思ったらくすぐったそうに笑われるだけ、ああ、もう、性質のわるい!

「っ平丸くん、いいかげんに、」

ぼふり、ようやく腕の輪から抜け出した右手、伸ばして、平丸くんの顔を隠していると思われるあたりの布団、なんとかずらす。やっと抜け出せる、思った瞬間それは、とうていかなわないと知った。

「(! ……っくそ、なんでそんな、うれしそうな顔してるんだよ…!)」

あ、観念しました? いつのまにかずっと近くまで抱き寄せられ、耳のすぐそばで平丸くんの声がする。一時間だけだからなと刺した釘は、果たしてそのふやけた頭に届いたかどうか。

(あんな顔見たらもう、帰るなんてできやしない!)