20時
僕は実家、向こうは奥さんの実家。全然ちがうところで年を越すのに、もう三日も連絡とっていないのに、どうして吉田氏のことが浮かぶんだろう。新年になったらなにか変わるだろうか。(…そんなにホイホイ変わるなら、きっと、もっとずっと楽なのに)「あ、母さんミカン、まだあります?」

携帯を開いては閉じる。また平丸さん? 笑いまじりに奥さんが言った。ちがうよ、慌てて否定したが図星である。年末はわるい気がして三日ほど連絡とっていない。こんなことは本当に年に数度で、なんだかそわそわする。(ていうか連絡くらい、してこいよな…平丸め)「あ、おそば、今行きますんで」


21時
携帯を開く。今年の正月は失敗したのが教訓になっている。新年の挨拶、なんと送るか迷ってけっきょく初日の出の時間まで悩んでようやくメールを送った。しかも初日の出に気づかず眠ってしまった前科がある。来年はもう繰り返さないのだ。(えーと、まずは、あけましておめでとうございます、と…)

そばを食べ終え親戚の子どもを構ってやりながら平丸くんのことを思い出した。あれだって大きな子ども、今頃きちんとした年末を迎えているか心配だ。(今年は実家に帰ると言っていたけど…)やはり一度連絡しようか、開いた携帯は電池切れ、笑顔が攣った「え?ああ大丈夫だよ、次はなにして遊ぼうか?」


22時
(むずかしいな…今年もよろしくお願いしますは、使いたくないし…かといって他にどういう話題を振っていいのかもわからん…)「え?おそばが余った?いやいや僕もうちょっと、え?育ち盛りって、僕もう三十ですよ!とにかく来い?うわっ!」(いやあの僕にはメールを打つという使命があってですね!)

奥さんにちょっとと言い置いてジャンパー羽織り車に飛び乗った。充電器を家に忘れたのが致命傷だ。ハンドルを握り実家を出て、最初の信号で止まりふと思う。(俺、なにやってんだろう…)連絡なんて、すこしくらい遅れたってなにも問題ないのに、なにやってんだろ。(平丸くん、どうしてるかな)


23時
気づかなかったが今年はもしや厄年かなにかだったのだろうか? 田舎で最寄のコンビニまでは30分かかるし、途中信号には全部引っかかるし、久しぶりに客が来たからってレジのおばさんは話が長いし! ああもう奥さんにどこ行ってたのって怒られる、早く家に帰らなければ…!

(ハアようやく帰ってこられた…えーとつづきつづ…!?ば、バカな、さっきまで書いた分が消えているだと!?お、お母さんが無理やり連れていくから焦って消してしまったのだ、う、うう、ま、負けない…今年こそ、今年こそは12時ジャストに送りつけてやるのだ…!)


24時
「あけましておめでとうございます。今年もよろしくとは僕は言いたくないが他に相応しい言葉が見つからないのでしかたなくそう言っておきます。西の方に行ってると聞きましたが寒いですか。僕は寒いです。あとみかんがおいしいです。年始は四日には家に帰ります。それでは」
車を飛ばして帰り子どもらを寝かしつけお姑さんの話を聞き奥さんにおめでとうを言って、ようやく充電した携帯を取ると零時ちょうど、平丸くんからメールが来ている。驚きながら読んで噴き出した。(…なんだ、むこうも同じ気持ちでいたのか)じゃあ四日に会いに行くよ、返してそっと、携帯をとじた。




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ついったでリアルタイムでやってたんだが…これ重い時間にやることじゃなかったと反省した
でもこれ言わないと今年最後の言葉が「吉田氏のぱんつ!」になるとこだったんだ。しかたないと思う
今年も平吉が幸せでありますように


(2011.0101)