ショタでパラレルでエロです


吉田氏は次の火曜まで来ないというから僕は不機嫌だ。となりんちのマンガ家が描くのが早いからいけない。おかげで吉田氏が来ない。今日は金曜日。窓の外は曇り鬱々としている。学校の終わりは今日に限って早く、英語の宿題もすでに終わってしまった。

中等部の制服もろくろく脱がずベッドに寝転がる。お行儀と叱る声は夜遅くまで帰宅しない。

いつもなら隣に遊びに行ってぐしゃぐしゃと頭撫でられながら菓子を頬張っている時間だったが吉田氏がいないのに出入りする気も起きなかった。マンガ家はいいおじさんだったけれど僕は吉田氏に懐いていた。小学五年生の頃、鍵を忘れたあの日からずっとだ。それまで僕はひとりっ子で鍵っ子で、いつだってぽつんと膝抱えて両親を待っていたけれど吉田氏に出会ってからは変わった。

吉田氏はいつも僕と一緒に待ってくれた。自分の仕事が終わると僕の家に上がって、トランプをしたり夕飯を作ったりしてかまってくれた。両親なんてすっかりいい人だと信じて特に遅くなる日など吉田氏に泊まってもらおうかなどと話しているくらいだ。

ほんとの吉田氏は子ども相手でも本気でジョーカーを引かせようとしてくるぐらい大人げないし、料理だって具が大きくて乱切りで、けっして素直においしいとは言えないけど黙っている。僕だけのないしょだ。最初に発売前のジャンプを読ませてくれたのも、頭を撫でる手が遠慮がちだったり時には力が強すぎて痛かったりするのも全部、僕だけのないしょ。

両親に話すのももったいなくて、ときどき吉田氏がするみたいにまねっこして自分で自分の頭を撫で、嬉しいのを噛みしめてみたりする。吉田氏の硬くて大きな掌が僕の髪を不器用に梳くのは、きもちいい。

こうかな、こういう感じ、いいやもっと雑な手つきで。目をつむり、指先の感触をたどるように自分の髪を撫ぜてみる。吉田氏の手と比べると一回りも二回りも小さな僕の手だったけれど、吉田氏を思いうかべながら指を通すとなんだか本当に吉田氏がすぐそこにいるみたいに感じた。

そうしてしばらく続けてふと、妙に息苦しいのに気づく。んん? と思って瞼を持ち上げおどろいた。半ズボンの前がひどく盛り上がっている。わああ!? 思わず飛び上がった。身を起こし、恐る恐るそこに手を伸ばしてみる。こんな風になったのは初めてでひどくびっくりしていた。

同級生が体育の着替えのときなんかにそういう話をするのはなんとなく聞いていたが僕はそういうのには疎くって、聞き耳くらいは立てて勝手に赤面していたけれど、でもどこか遠い世界のことみたく思っていた。ズボンがこんなに、窮屈になる日がくるなんて。布に当たっているだけでもなんだかつらくてゆっくりジッパーを下げてみると、僕のそこは途端に白いブリーフをぐいと押し出した。自分の身体じゃないみたいで、やっぱり信じられなかった。

どうしよう、僕はどうしたらいいだろう、おろおろと周りを見回したっていつもと変わらない僕の部屋があるだけで、解決してくれる誰かなんていやしない。(いやいたってこんなところ見られたら困るのだけれど、)

しかし「誰か」はそのとき、携帯の向こうに現れてしまった。とうとつに鳴った机の上のお子さま携帯にビク! と肩震わせ手に取ってみれば吉田氏だ。気まずさを残しながら通話に出る。

「も、もしもし、…吉田氏?」
『あ、平丸くん? よかった、』

ごめんね、開口一番吉田氏があやまる。なにがごめんなのだと思っていれば、しばらくこっちに来ないので僕が拗ねているだろうと仕事の合間電話をよこしたのだそうだ。べつに拗ねてなんかないです、言い返したけれど、その言い方がすでに拗ねていて、僕はちょっと、しまった、と思った。電話の向こうで吉田氏の笑うのが聞こえる。しばらく他愛ないことを話したあと、ごめんね、火曜はなるべく早めに行くからと添え吉田氏は電話を切った。

暗くなった画面を切り替えながら僕はさっきよりずうっと、どうしたらいいか、わからなくなってしまっていた。電波越しなのに吉田氏の声を聞いたらよけいに血が集まってしまったみたいなのだ。今度はパンツ一枚だけでも呼吸が苦しい。携帯を起き、前かがみに立ち上がってのろのろと歩いて僕は部屋の鍵を内からしめた。めったにそうすることはなかったし、両親がこんな夕方に帰ってくることも絶対ないとわかっていたけれど、どうにも後ろめたくてしかたがなかったからだ。

窓際のベッドにあぐらをかきカーテンをしめてその上に背をもたれる。そうっと取り出してみた。ふにゃっとしていて、でも、熱くてまんなかに芯があるように感じる。聞き耳の記憶をたよりにこしこしとこすってみた。腰のあたりがじんとして、あ、とかう、とかへんな声が勝手に口をついて出る。頭がぼうっとした。吉田氏のあの硬い手が僕のここを触ったらどんな気持ちになるだろう、考えながら手を動かすといっそうたまらなくなる。

手がべたべたしてきてうすら怖かったけれど夢中で止められなかった。吉田氏もこんな風になるのだろうか、大人だから、ならないのだろうか。(でも吉田氏がこういうことするの、ちょっと…見てみたい…)熱くて熱くてたまらなかった。たまった熱をどうにかしたくて必死にこすった。吉田氏が赤い顔してぎゅっと眉を寄せ、同じように扱いているのを想像した瞬間、僕は両手にどくんと吐き出してしまっていた。ビリビリと体が痺れて仰け反る。うともあともつかない悲鳴が喉の奥から短く飛び出た。体中けいれんしたような衝撃で、僕はそのまましばらく震えていた。

そうして気がついたときにはチョロチョロと漏らしてしまっていて、部屋の中にはもわっとしたアンモニアの匂いが立ち込めていた。おかあさんになんて言おう、泣きたい気持ちになった。とにかくよだれをシャツで拭って、真っ白い手にティッシュを押し付ける。いっしょに下も拭くとまた大きくなってしまいそうで慌て、ゆっくりとブリーフの中にしまいこんだ。シーツもシャツも半ズボンも、すっかりへんな匂いがしてところどころカピカピしていた。洗面所でタオルに水を含ませて擦ったらすこしはましになったけれど、シーツの黄色い染みだけはとれなかった。中学二年生にもなっておねしょでもしたみたいで恥ずかしかった。

どうやって親に内緒でやり過ごそうか、考えているあいだにお母さんが帰ってきてしまった。パジャマで玄関まで迎えに行って、仕事鞄を受け取り廊下の電気をつける。ヒールを脱いだお母さんはハアと首を回し、カズくん吉田さん今度はいつ来るのととうとつに聞いた。ビクリ! 振り返ると、来週もしかして出張かもしれないから、できたら吉田さんに泊まっていってもらいたいのよ、なんにも知らないお母さんが言う。僕はブンブンと首を横に振った。

「?なんで? 嫌なの?」
「ぅえっ!? あっ、ちっ、ちが…あ、えと…そのう…お、おねしょ…」
「あら! あら、…そっかあ、そうねえ、それは、呼べないわねえ」

カズくん吉田さん大好きだから、かっこわるいところ見せたくないものねえ、言われてカアとなる。お母さんは僕の繊細な男心なんて本当に、本当に、わかっちゃいないのだ。

(あんなときに想像しちゃって、なんだか気まずいからなんて、しんでも、いえないけど…)

吉田氏の手がつぎに僕に触れたら、僕はいったい、どうしよう。

楽しみにしていた火曜日のはずなのに、なぜだかずうっと、来なければいいのにと思った。


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身内物C
(2011.0403)