動物ギャクタイはよくないことです。犯罪で、たぶんウン万円の罰金とチョウエキが課されます。 でもしょうがないです。見ているとお腹の中がぐるぐるしてマンガを描くのにも集中できません。お気に入りの音楽かけても気になります。手が勝手に、いじめてしまうのです。 手酷く僕の手で乱暴されたりんご犬のぬいぐるみはかわいそうに鼻が取れかけ、丸い目はひっそり涙をこぼしているように元気なく、机の右端ティッシュ箱の上に、座っていました。耳はふにょりと垂れ下がり、しょんぼりしています。 (……ごめんなさい、です) 心の中であやまると握っていた鉛筆がぺきり、折れました。 毎週日曜朝七時、東京に越してくるまでかかさず見ていたアニメ『りんご犬とガイチュウマン』の主人公りんご犬、僕は大好きでした。アウトローなガイチュウマンも好きでしたけど、王道まっしぐらのりんご犬、お腹を空かせた子どもには自分のボディのりんごを分けてやりながら食べものの大切さ教える姿もっと好きでした。 そんな、大好きなりんご犬だけれどボコボコしてしまうのはぬいぐるみ、福田さんが持ってきたからです。「これおみやげ」そう言って渡された手のひらサイズ、それだけなら僕だって素直にわあわあ喜んだのに、福田さんもうひとつ、シュウショクセツ。「雄二郎と買い物行ったついでにさ」そんな一言僕いりませんでした。 雄二郎と買い物、かんたんに言った福田さん、その時間がどんなに価値あるかわかってないです。僕なんてまだ一度も、雄二郎さんとデートらしいデート、したことないのに! そうつまりはそれが本音です、かんたんに言えばただのやきもちです、嫉妬です。僕から告白してお付き合い始めて一ヶ月も経つのに仕事以外で雄二郎さんに会ったこと、僕は一度もないのです。ずるいのです。僕だって雄二郎さんとふつうの恋人みたいなことしたいのに、雄二郎さんは編集部の下っ端で忙しいから僕からは言い出せません。 だから結局おみやげのりんご犬、耳を引っ張ってみたり鼻をぎゅうぎゅうしたりしてしまいます。そうしてはっと冷静になってごめんなさい、ぬいぐるみにあやまってひとり、しょんぼりするのです。 アクジュンカン、最近漢字のテストで勉強してようやく書けるようになった漢字です。悪循環と書きます。画数が多いので僕はあまり、好きではありません。 まるで唇の裏にできた口内炎みたい、小さくじくじく長く続いたイライラ、治ったのはその、二日後のことでした。 いつもどおりの木曜日、アシスタントに来た福田さん僕の机見て言いました。 「なんだよもうちっと大事にしてやれよ、雄二郎が二時間も迷って選んだやつなんだから」 二時間というのは、時間に直すと百二十分、分に直すと七千二百分、秒に直すと四万三千二百秒になります。聞いて思わず筆算したから確かです。 僕といないいつかの日、四万三千二百秒、雄二郎さんはずっと僕のことを考えていてくれたのです。そう思うと机のすみっこうなだれたりんご犬、とってもごめんなさいの気持ちになりました。(ごめんなさい、ごめんなさい!) 僕は福田さんが帰るとそっと、机の一番上の引き出し、開けました。 「これしかないですけど、ちょっとは痛いのへると思うです」 ぺりぺり、ぺたり。白い紙はがしてばんそうこ、取れかけたりんご犬の鼻に。最後の一枚だったばんそうこ、お腹のすこしつぶれたりんごまでは手当てできません。今度包帯を買ってこようと思いながらはがした紙をごみ箱に放るとポケットの携帯、ぶるぶる震えました。(……あ、雄二郎さん) 「…もしもし?」 『あ、新妻くん? 原稿そろそろ終わったかな、』 「はい」 『そっか、じゃああとで取りに行くね、それじゃ、』 「雄二郎さん」 『ん?』 「…ごめんなさいうち、ばんそうこしかなかったです」 いくらか間がありました。それから雄二郎さんは、事情なんてまったくわかっていないだろうにうん、いいんだよと言いました。知らない緊張していた肩、ふっと力が抜けてイスの背もたれにもたれかかります。 ぬいぐるみありがとうございました大事にします、そういうと雄二郎さんは気に入ってくれてよかった、言葉を和らげます。僕はほっとしました。 すこしだけ話をして、それから僕が電話を切ろうとすると雄二郎さんが、言いました。 「新妻くんあのさ、りんご犬、好きだったよね? 今度ミニシアターで短編映画が公開されるんだって、よかったら、」 「っいきます! ぜったい!」 「あ、…そ、そっか、うん、たのしみだな、それじゃ、スケジュール空けておくから」 「はい!」 ばんそうこ貼られたぬいぐるみはティッシュ箱の上、耳は垂れたままだけれどにこり、笑ったように、見えました。 りんご犬が好きです! でも雄二郎さんはもーっと、好きです! ++++ 番組ではりんご犬イメージを募集しています。 あて先はこちら→e-cliceりんごnifmail.jp 応募者の中から抽選でりんご犬×ガイチュウマン小説当たる!(笑) あちなみに当たるのはほんとです^^ (2009.0921) ← |