編集部から持ってきた書類の束を丸いテーブルにドンと置くと、あ服部さん遅かったすね、生意気な少年は携帯から目だけ上げそう言った。(この重い資料が君の新居の資料と知っての狼藉か!)僕は昨日広島から出てきたばかりの彼をダンボールに詰めて今この瞬間送り返したい衝動に駆られたがなんとか耐えた。編集者の顔を必死で作って苦笑いを浮かべ、わるいねと言えば、べつにいいすけど、パタンと携帯閉じて福田真太はそう言った。テーブルの下で組みかえられた長い足、スニーカーの先が僕の膝に触れた。あすんません、あやまる態度さえ、――ああ、ああ、もう!

(な ん だ こ の 子 ・・・ !)

大人の対応に徹しようと思っていたがやっぱり気に喰わない気に喰わないもうさいあくだ、手足は見せつけるようにすらりと長いし顔はやたら整っているし背は高いしそして、なにより、

(サラッサラのストレート・・・!)

相容れない、確実に絶対に百パーセント、そりが合わないに決まっている!(ああ編集長どうして彼を僕に振ったんですか・・・!)

今日の打ち合わせが終わったら担当作家を替えてくれるよう打診しようと思いながら、向かいの席につく。窓際差しこむ初夏の日差し、ブラインド下ろして遮断するとひんやりと冷房が抜ける。半袖にはすこし寒いくらいだ。コーヒーを二つ持ってきてテーブルに置いた。砂糖を渡そうとしたら無糖でいいっすと言う。本当にかわいくない十九歳。


上京してきた福田くんと今後の住まいやら、アシスタントを募集している先生の話やらをだらだらと。どうやらこちらにはあまり頼る親類などもいないようで、明日は僕が不動産に付き合ってやることになった。明日も福田くんと会うのかと思うと気が滅入るが、一応僕はまだ彼の担当だ、しかたない。それにしても、と思う。

わずかの遠慮を含んだ「服部さん」はいつのまにか「雄二郎さん」に変わっているしつり目は生意気だし口調も完全に僕をなめきっている。これは誰かに担当を任せるにしても、その前に多少は礼儀というものを教えてやらなくては。ああ、気が重い。

そんなことを考えながら一口、コーヒーを飲む。滴が切れカップの白が浮かんで僕はふと気がついた。

「ところで、」
「え?」
「コーヒー苦手だった?」

さっきから全然手、つけてないけど。付け足すと福田君はふいと目をそらし、ぽそりと言った。

「・・・俺、猫舌なんで」

(!)

なんだ、照れた顔はすこしは、ほんのすこしはかわいいじゃないか、なんてそんな、そんなこと、決して思っていない。ほっぺた赤くして子どもっぽいところもあるじゃないか、なんて、すこし、ほんのすこししか、思っていない。本当だ。

至極冷静なふりをして、僕は書類に目を落とした。内容はあまり頭には入らなかった。こんな生意気な子どもを他の人に任せるのは気の毒だから僕が責任持って引き受けようと思った。(ああ我ながらなんて素晴らしい自己犠牲の精神だろう! 集英社のイエスと呼んでくれ)


(・・・・・べつに、ちょっとかわいいからとかそういう理由じゃない、断じて決して絶対に!)



++++
福雄が好きだが雄福も好きだ
というかぶっちゃけ両方好きだからどっちでもいい


(2009.0709)