束の間の沈黙、のち、べしゃり、剥ぎ取った。
セールス吉田氏お断り、癖のある字ででかでかと玄関、まさしく真正面から売られた喧嘩にいらっとする。(平丸め、いい度胸じゃないか、)
掌で丸めて古びた廊下に投げ捨て、(大家さんにあとで怒られるがいい!)じろり、覗き穴をにらむ。

「…平丸くんそこに、いるね?」
「っ!」

ガタゴトガタ、大きな物音がした。なんてわかりやすい。大方俺の反応を見ようとかそういう考えだろう、ドアに手をかけるとぐっと、内側に引かれるのがわかる。(むだな真似を、先週ドアのチェーンまで壊されたのを忘れたのかい?)
しかし力ずくでこじ開けるのもなんだ。平丸一也のために一滴の汗を流すのも癪で、ドアから手を離し、俺は言った。

「残念だな今日はきみのファンだっていう知り合いを連れてきたのに。そこからは見えないだろうが相当な美人だぞ?」
「えっ!」

バタン、勢いよく開け放たれたドアはひらり避け、飛び出してきた細い男、手首をガシリつかむ。傾いだ身体、肩を止めてやると倒れる寸ででとまる。きょろきょろと辺りを見回し俺以外だれもいない廊下に気づいてぎょっとした目が、見上げる。冷や汗が噴きだしたのが手に取るように、というか実際手を取っているわけで、よく、わかった。俺は笑う。

「さあ平丸くん聞かせてもらおうかどうしてあんな張り紙を貼ったのかな?」
「…! いえあれは近所のわんぱくな子どもたちのいたずらでして、」
「担当の目をごまかせるとでも?」
「……すみません僕が書きました」

もしょり、丸くなる背中にため息が出る。

「――まったく、きみねえ、」
「すっ、すみませ、」
「俺とセールスを一緒にするんじゃないよ」
「え?」
「きみにとって俺とたかだかセールスの男が同列というのが気に喰わない、今度からは俺限定にしなさい」

しばらく平丸くんは黙っていたがやがて小さくうなずいた。俺は満足してさあさっさとはたらけ仕事をするんだと彼を急かした。握りしめた手首はなぜかさっきより熱いような気がした。


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一連のお題はボコリ愛同盟さまよりお借りしました
しかしボコってない件^^;


(2009.0914)