わるいね福田くん、突然お邪魔して。あ、アシスタントの君、お茶を入れてくれ、なに緑茶でいいからね、おかまいなく。え? お茶を出す時点でかまってる? 来客にはお茶とついでにお茶菓子をそっと出す、日本の伝統も知らないのかい最近の若者は。あ、そこのおまんじゅうも出してくれてかまわないからね。

ああ福田くん気にせず原稿の続きをどうぞ、僕はここで大人しくしてるからね。…ん? ああ、いやたしかに仕事から逃げてきたっていうのもあるけどちょっと、吉田氏がね。え? なに聞きたいの? しょうがないなあどこから話そうか、あー…そう、今日は吉田氏がめずらしく昼を食べに連れて行ってくれるというからね、え? 聞きたくない? さっきは自分から聞きたいと言ったんじゃないか話し出したら言いたくなったよ、BGMがわりに聞けばいいじゃないか、小川のせせらぎのようにアルファー波を出してみせるよ、…えっ無理? いやそれはやってみないとわからないよ、ねえそうだろう?

話をもどそうか、今日は編集部で待ち合わせて近くの定食屋に行ったんだ。とろろが売りの店でね、麦とろ丼がうまかった。あんまりおいしいから吉田氏がよそ見した隙に豚とろに手を出したら鷲掴みにされてしまった、ああいやもちろん、素手なわけないじゃないか僕がそんなに粗野な男に見えるかい? まあ自分では、優男風だがその実野性味ある男を気取っているんだがね、ああだけどあのときは惜しかったあと1センチで箸が届いたのに、というかもうすこしで吉田氏の食べかけに届いたのに。…どうでもいい? 福田くん自分から聞きたいと言っておいてその態度は失礼じゃないのかいゆとり世代だからといって許せることと許せないことが、……すみません調子に乗りました吉田氏は呼ばないでください。

そう豚とろは惜しかったが大事なのはそこじゃない、その後なんだ。気前よく吉田氏が会計を払い僕たちは店を出た。当然、駅前を通る。問題はそこだ、吉田氏はどうしたと思う? 吉田氏は、そう吉田氏はかわいい女の子の配るポケットティッシュを受け取ったんだ…! 福田くんどう思う? この僕の前で、鼻の下を伸ばしながら、ポケットティッシュを…! どうも思わない!? 失礼だけど君本当に血管に血が流れているのかい?

僕は怒ったね、烈火のごとく怒った、そうして走って逃げてポケットに入れていた連絡先ノートを頼りにここまでたどりついた次第さ、まったくひどい話だろう? 僕というものがありながら、僕の目の前で、ポケットティッシュだよ? ちょっとかわいかったからって、受け取ったんだよ?

あの武骨なくせに甲斐甲斐しい吉田氏の指に彼女の手が触れたと思うだけで苛々するね、僕の隣を歩いていたくせに一瞬とはいえ彼女に注意が行ったことも気に食わない、不実だよ、これは純然たる浮気だ、吉田氏が浮気した、ああもう、世界は、滅亡だ……。時にアシスタントくん来客のお茶は半分なくなったところで注ぎましょうかと聞くのが日本の伝統だよ、現代社会の変化という一言で片付けていいマナーではないと思うね。…ああ、お茶のおかわりをどうも、気が利くアシスタントを持って福田くんが羨ましいよ。

なに? いいかげん帰れ? あの浮気性の担当の元に帰れと言うのか殺生な! きっと今ごろあの子と仲よくお茶でもしているにちがいないよ、僕がいないのをいいことに、……ん?

――っ! そうか僕が横にいなければ吉田氏は平気でまた浮気を重ねるにちがいない! そうだった僕はなんてバカなことを! こんなところにいる場合じゃない早くもどらないと、ああどうもお茶をごちそうさまでしたお邪魔したね、君はきっといい漫画家になるよ、あとはお茶菓子が出せれば一流作家間違いなしだ、それじゃ、失礼します。


! 吉田氏! なにをしてるんです? えっ僕を追って? …ここまで? し、しょうがないなさっきの件は水に流してあげま、え? 来週号センターカラー? きっ、聞いてませんよそんな、え? それで僕の機嫌をとるための外食だった? 〜っ仕組んでたんですね! なんて、なんて性質のわるい! ああサスペンダーを引っ張らないでください帰りますおとなしく帰りますから!

(そのかわりもう浮気は一切ゆるしませんよ)
(……それ、なんのはなし?)


+++
ここまで読まれたあなたの感想を
一言で、言い当ててみせましょう
「うぜええええええええ!(゚Д゚)」
ね? 当たったでしょ?^^


(2009.1005)