注意:平丸がパンダで吉田氏がラッコです



パンダはラッコ氏が大きらいでした。

寝て起きてごはんを食べて、だらだらごろごろとパンダは過ごしていたかったのですが、シュウエイ湖のほとり、ラッコ氏に出会ってからというものパンダは、ラッコ氏の貝がらを割る手伝いばかり、させられているのです。

一日でもサボろうとすればわざわざ水伝いパンダの家までやってきて、「ひらまるくんなにをしているさっさと割れ!」と石を投げつけてきます。

だからしかたなくパンダは、今日ものそのそラッコ氏の湖まで歩くのです。片道五分の道のり、ニート手前のパンダには楽ではありません。もそもそもそ、途中の林でササをむさぼりながらパンダはゆきます。

いつものようにシュウエイ湖のほとり、パンダがゆくとラッコ氏はちらりと見て、おそいとひとこと言いました。ほら今日の分の貝がらだぞ、青い貝を二枚、パンダにわたします。水辺にのっそり座ってパンダは割り始めました。

パンダはラッコ以上に、貝がらを割るのが得意でした。ラッコより力強く手先の器用なパンダを見込んで、ラッコ氏は手伝いをたのむようになったのです。

両の指先でガンガンガン、パンダは貝を割ります。石も使わないけれど貝はきれいに割れました。ラッコ氏に放るとパクリ、小さな口で頬張ります。湖の貝は小さく、ひとつではとうてい、ラッコ氏のお腹はいっぱいになりません。あとからあとから、パンダは貝を割りました。


しばらく二人で割って、お日さまがすこしかたむいてくると休憩の時間です。

パンダはぐうたら寝そべって、ラッコ氏といくつかの話をします。りんご犬のエイジとキツネの福田が遊びにパンダの家に遊びに来たこと、ラッコ氏が湖でみつけた特別大きな貝がらのこと、その日の天気の話、いろいろです。パンダはラッコ氏が大きらいでしたがこの時間は、きらいではありませんでした。

そうしてまったりした時間が終わるとパンダはまた、ラッコ氏の夕飯をたたき割ります。くたくたになって家に帰るころには、もうお月さまが出ていました。

"今日もラッコ氏はひどかったなあ、"

頭の中でぐちを言いながら、パンダはお月さまにおやすみしました。


ある日森にひどい雨雲が、やってきました。

ゴウゴウゴウ、吹きつけて雨水、土を濡らし川をあふれさせ葉を散らします。家木まで揺らす大雨、パンダはいつも以上に、シュウエイ湖に行きたくありませんでした。

けれど行かなければラッコ氏がまた石を投げつけてくるかも、そう思って(というのは建前で本当はラッコ氏がとっても心配で、)家を出ました。目に入りそうになる雨粒を大きな手で避けながら、パンダはゆきます。途中の林ではササが切りつけパンダの毛をひりひりと刻みますが一生懸命、パンダは歩きました。

しかしたどりつくとラッコ氏の姿はありませんでした。せっかく来たのにとパンダはしゃがみ、湖をのぞきこみます。すると、もやもやと大きく湖面が揺れ、ラッコ氏が出てきました。

「よしだし!」
「雨がうるさいから下にもぐっていたんだ。…それにしてもひらまるくんどうしたんだい、今日は来ないかとおもっていたよ」
「ぼ、僕が来ないと怒るくせに、」
「うんでもひどい雨だからね」

まあ座ってよ貝のひとつでも出すから、豪雨の中のほほんと言うラッコ氏にパンダは力が抜けてしまいました。座り込むとハラリ、腕に絡み付いていた葉が一枚、揺れ落ちます。見咎めたラッコ氏が聞きました。

「それは、ササ?」
「え? …ああ、はい」
「ひらまるくんがいつも食べてるやつだよね?」
「はい、ササはおいしいです」
「ふうん、」

興味なさげにラッコ氏はうなずきましたがパンダは聞きました。

「もしかして吉田氏、ササ、ほしいんですか」
「! そ、そんなこと、」

小さな手をふりふり、ラッコ氏は否定しましたがパンダはくさはらに落ちた緑を拾い、一枚、ラッコ氏にあげました。

ラッコ氏はしばらくしげしげとながめ、それからぽそり、ありがとうと、言いました。


"今日は雨がひどいんだから、もう帰ってよね"


ラッコ氏がそう言ったのに、パンダはずうっと、雨に打たれてそこにいました。




パンダは次の日、雨で疲れたせいで、寝坊をしてしまいました。

久しぶりにお昼まで眠ってしまった、家を出て頭の上のお日さまに目をこすります。それからふと、どうしてラッコ氏は来なかったのだろうとおもいました。いつもなら石を投げつけに来てもおかしくない時間です。

どうして呼びにこなかったのか、お昼すぎ湖に行ったパンダが聞けばラッコ氏はそっぽむいて、「来るってしんじてたから」と、蚊の鳴くような小さい声で、いいました。パンダはなにも言いませんでしたがその日いつもよりたくさん、たくさんの貝を割りました。

ラッコ氏はパンダにもらったササの葉をいじくりながら、むしゃむしゃと、貝をたくさんたべました。


シュウエイ湖に行くのが毎日のきまりになりました。パンダは雨の日も風の日も晴れの日も、のそのそとラッコ氏のところに通います。

ラッコ氏は、遅い、と言いながらもいつもうれしそうに、パンダに貝がらを投げつけました。


そうしてある春の、お天気のいい日のことでした。

それまでラッコ氏の水辺に自分以外のだれかがいるのを見たことはありませんでしたがその日、ラッコ氏のそばには一匹のブタとアフロのネコがいました。おどろきながらそっと林の陰に隠れ、パンダはようすをうかがいます。

なんだかずいぶん楽しそうでした。ラッコ氏は穏やかに、二匹と笑っています。パンダはそれを見てなぜか、ひどくいやな気持ちになりました。

そうしてその日、パンダはくるり、家に、引き返しました。

『来るってしんじてた』ラッコ氏はパンダの家に、石を投げつけには来ませんでした。


ずうっと通っていたのに、パンダはその日から、シュウエイ湖には、行かなくなりました。

頭の中には微笑んでいた、ラッコ氏と二匹の姿が焼きついて離れません。重たい気持ちを抱えて数日、パンダは家にとじこもっていました。

家を出たのはお腹が空いて、我慢がならなくなった日のことです。湖に行く途中の林で、もしゃくしゃ、ササを頬張ります。


それから、どうしてもようすが気になって、ばれないようにこそこそと、パンダは湖の方を見に、行きました。

けれど湖面を見て、パンダはハッと気がつきます。そうして、走りました。走るのなんてとてもとっても久しぶりだったけれど、走りました。かけつけた水辺、パンダは目を見開きます。

ラッコ氏はひどく弱っていました。水際に手をつきパンダはのぞきこみました。ゆっくり、ラッコ氏は目を開きます。

「………ひらまる、くん?」
「っよしだし、どうしてこんなになるまで貝を割らなかったんです!お腹がすいて死んじゃいますよ、よしだし!」

縋るように言えばラッコ氏はうすく微笑みます。握っていた両手を、そっと、ひらきます。

――ぐしゃぐしゃの葉、ふかみどり

「…だって、ひらまるくんがくれた葉っぱだろ」
「!」
「手を離したら風に飛んじゃうかもしれないじゃないか…」

おおんおおん、泣きながら、水に濡れたラッコ氏の身体をパンダはきつく抱き締めました。ごめんなさいよしだし、あやまりながら、抱き締めました。

"ひらまるくん冷たいだろ、濡れちゃうよ、"

ラッコ氏はそう言ったのに、パンダはずうっと、離しませんでした。

パンダはラッコ氏が、大好きでした。大好きでした。


"よしだし明日からぼく、本気だしますから"
"あてにならないな、きみのことばなんて"


++++++++
ふー…
また世に迷作を送り出しちまったぜ!d(゜v´)☆ミ

ていうか、
湖にラッコいないっす。すみません


(2009.0912)