後処理が面倒だから中はやめてくれと言ったのに男は聞く耳持たず堂々と人の直腸に注ぎ込んでくれた。さいあくだ。出されたことがじゃない、まあ過ぎてしまったことだしもういいかと思ってしまっている、自分自身がさいあくなのだ。俺の胸に手を付き身を起こした編集長は汗にずれた眼鏡を直し、それから見下ろして俺の腹をゆっくりと撫ぜると満足そうに低く笑った。今日はもう終わりにしてくださいよ、いい年なんだから。俺は言ったが、要求が受け入れられることなどほとんどないのは知っていた。突っ込んだままの腰がふたたび律動を始める。

受け入れられないと知っていてわざと要求をつきつける俺も、けっきょく、同類なのだろう。背中に腕を回すと眼鏡が落ちてきて鼻にぶつかり、すこしだけ、笑った。



穿たれつづけた腰がひどく重い。カーテンの隙間から差し込む空はすでに青白んでいた。いったいどれだけ長いことやられていたんだか、考えたくもない。散々人をなぶった男はようやく隣で寝息を立て始めている。いつもすこしずつ大きくなるいびきを詰ったところで顔を歪めて笑われるだけ、改められることもなければ悪びれることさえしない。酷い男だ。

そう、編集長という人は、担当作家に鬼畜人でなし悪魔と罵られる俺から見たってよっぽど酷い男だった。だって最初が強姦だ。しかも俺の結婚式の三次会の途中、会場のトイレで突然に。最悪としか言いようがない。誰も彼も酔っていたのでそんな日まで介抱役に回った俺が肩を抱えて連れて行ったところを個室に押し込まれ犯された。もちろん抵抗した。当たり前だ。しかし悪酔いはやめてくださいよと押し返す俺の腕を乱暴にまとめると男はちっとも酔ってなどいない顔で薄く笑い俺に言ったのだ。

「人の物になったら、急に、おまえが欲しくなったんだ」

俺は思わず脱力した。そうして雑な手つきで下だけ半端に脱がされ突っ込まれた。編集長はすでに猛っていて初めて受け入れる俺にはあまりにつらく、途中何度か気をやりそうになったのにそのたび頬を張られるので失神させてももらえなかった。結局男が満足するまで俺はやられた。気づいたときには腰を預けていた便器の蓋にべったりと、血と体液の混じったものが付着していて、男に言われるままそれを拭うのは、ひどく屈辱的だった。そうして、部下である俺の新しい門出を祝いスピーチまでした男は、同じ日、俺を人生で最も深い絶望に突き落としてみせたのだった。

思い返せば返すほど、勝手な男だと思う。あれから数年が経つというに、かわらず自分の気が向いたからという理由だけで俺を抱き、出すだけ出して満足すれば後は始末などまったくせずにシーツになだれこむ。奥さんに見られるから跡はつけないでくれと言っているのに、気まぐれに俺の見えないところに鬱屈を残したりもする。勝手だ。勝手な人だ。俺がどんな思いで重い身体引きずって浴室まで行き自分の尻に指を突っ込んでいるかなんて考えたこともないにちがいない。慣れてしまった匂いのするバスタオルで身体を拭きながらなにを考えてるかなんてきっと一ミリも知らないにちがいない。

だから彼女と付き合う前、俺がどんな気持ちであの男を見ていたかなんて絶対に、わかるはずも、ないのだった。


服を取りに寝室のドアを開けると珍しく編集長は起きている。大きなベッドにもたれた男は煙草を吐き出して俺を見上げた。なんだ、まだいたのか。(らしい台詞だ)口の端が歪む。

「いましたよ、明け方まで離してもらえなかったんで」
「くわえ込んで離さなかったの間違いだろう」
「(…下品だな)」

素知らぬ顔で煙草をふかし続ける編集長の横でわざとらしく腰を労る仕草を見せつけながら服を拾ってやったのに顔色ひとつ変えやしない。舌打ちしてズボンに足を突っ込むと、短くなった煙草をようやくもみ消した編集長がもぞもぞとやってきてベッドに座ったまま、後ろから俺の腰に手を回した。履けないんすけど、抗議は一笑に付されて消える。強い力で引っ張られ背中から編集長の腕の中に抱きかかえられるかたちになった。ケツが痛い。すぐそばの顔を振り返り睨むと、誘ってるのか? というので一発殴っておいた。

まだ帰るな、俺を抱き締めた編集長が言う。まだいたのかと鬱陶しがってみせたり、忙しい人だ。妻が待ってますんで、引き剥がそうとすると男はくくくと笑って俺にささやいた。

「おまえそう言ってずっと、私に惚れているくせに」
「!」

(…ああ、…ああ、さいあくだちくしょう、ああ、くそ…)

いつから知っていたんですか



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身内物@
掌編集のつづき。なんか身内物増えてきたからまとめてのせるね。

(2011.0325 to.Merci)