※注意書き※
100%パラレルです
コージィの兄が勝手に出てきます
平吉要素を含みます。若干の平丸×コージィ要素も含みます
若干の流血表現、性的表現(R15程度)を含みます

以上の注意を読んでそれでも行っちゃう
つわものさんだけスクロールしてください



コージィは鏡の国の王様です。一番高い丘の上の、一番綺麗なお城に住んでいます。二つの大門と四つの塔、八つの倉庫と十六の旗を持つ豪奢な城は、人々には鏡の城と呼ばれ、眩しげに見上げられておりました。というのも、その城では内外合わせ、五十四のうつくしい鏡がきらめいていたからです。みてごらんあの、うつくしい城にはそれはうつくしい王様が住んでいるのだよ、人々は噂し、遠巻きに塔の天辺でひかり放つ鏡を見ては目を細めておりました。けれど王様の姿を見たことがある者は、だれもいません。鏡の城は本当に、鏡だらけで内部は迷路のよう、王様の部屋までたどりつくのはとても、とてもむずかしいことだったのです。

けれど、噂は本当でした。コージィはしろく透きとおるような、うつくしい青年でした。じぶんをだれよりなによりうつくしいと思っており、そしてそれはだいたいの場合ただしいことでした。

細かく黒の塗られた足の爪からほどよく筋肉のついた脚、ほっそりとした柳のような腰、くっきりとした鎖骨、剥き出しの肩は白桃のようにすべらかで、うっすらと脈の主張する手首を通って長く繊細な指、爪には足と同じ黒、猫科を思わす細い、しなやかな肢体。首には気に入りのネックレスと王様のレリーフが刻まれた首輪をつけ、シャープな顎につづき肉のうすい唇、ツンととがった鼻、ゆるやかな軌跡を描く瞳、まつ毛は女性のように長く、黒い髪はいつだってすっきりとまとめられていました。黒い服を好んで着ているために、白い肌は特によく、目立ちました。コージィはまるで白黒の絵の中から切り取ったようにうつくしい、青年だったのです。

コージィはじぶんが大好きでした。バジルソースのパスタもなめたけご飯も大好きでしたが、じぶんはもっと好きでした。華美な装飾もビロードの絨毯も好きでしたが、じぶんはもっとずうっと好きでした。城中に置かれた鏡は、自分をいつでもみられるようにするためのものでした。薔薇のお風呂に浸かるじぶんを眺めては、窓辺でアンニュイに城下を見下ろすじぶんを横目でたしかめては、満足にひたります。(ほんとうは、「アンニュイ」の意味はよく知らないのですが、つかうとなんだかかっこいいので、コージィはアンニュイという言葉が、好きです)鏡をあつめすぎたせいでお城の中で迷うこともしょっちゅうでしたが、コージィは道に迷い苦悩するじぶんの表情もすきだったので、あまり気にすることはありませんでした。

鏡をみつめうっとりし、時おり歌をうたい絵をえがき、王様のイスでしばらくふんぞり返ってそれから天蓋つきのベッドでねむる。それが王様の一日でした。一日中じぶんの美貌に酔うことのできる生活に、コージィはひどく満足していました。


しかしその日はめずらしく、コージィはひとりきりではありませんでした。
じつは、鏡の城にはもうひとり、コージィのひとつ前の王様が、住んでいたのです。コージィよりふたつ年上の、兄でした。数年前までは兄がお城の王様だったのですが、ある日ぽつりと、じぶんの部屋にこもってじぶんのうつくしさを今以上にひとりで楽しみたいと言い出して、王座を降りたのでした。

その兄とたまたま、お城の廊下で鉢合わせたのです。ふたりは一瞬、遭遇したことに気がつきませんでした。廊下は鏡だらけでしたし、それに、再会するのはとても久々のことでした。そしてなにより、ふたりはとてもよく、似ていたのです。同じ顔、同じ服、同じ身長。ちがいといえばコージィだけが王様の紋が入った首輪をつけているかわりに兄は細いフレームの眼鏡をかけていること、それくらいでした。

ふたりは互いの存在に気づきおどろきながら、ひさしぶり、と挨拶をしました。ことばと一緒に、コージィは右手を、兄は左手をかるく上げます。鏡面のような構図にふたりはほっとしました。

コージィは、じぶん以外に興味がありません。兄は、じぶん以外に興味がありません。そんなふたりが広い城でとはいえ一緒に暮らせているのは、互いがひどく似通い、まるでじぶんの顔のように見えたからでした。もしコージィの鼻があと一センチ高かったら、兄の目が三ミリ細かったら、おそらくふたりは相手を同じ住居に迎えることを拒んだでしょう。まるでじぶんを見ているように感じられるからこそ、ふたりは互いの存在を認めたのです。ほんとうに、中身までよく似たふたりでした。

しかし同じ城に暮らしているだけで、ふたりは相手に興味がありませんでした。あくまで自己愛主義者ですから、他には興味がないのです。ひとこと挨拶をしたきり沈黙がながれ、けっきょくふたりは行き過ぎました。そうしてそれぞれの部屋にもどりじぶんだけをながめて、ほっとします。幼いころはなかよく遊んだ兄弟でしたが、思春期をむかえ自己愛がつよまるにつれて、兄への、弟への興味をなくしたために、この数年はほとんど口を利くことがなかったのです。

ずいぶん久々に会ったけどあんまり変わっていなかったな、と思いながらコージィは、白いシーツに顔をうずめました。大好きな香水はなつかしい匂いがしました。




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